投稿日:2023年5月30日 更新日:2024年1月31日

日本神経学会:手根管症候群

前方法から後方法へー頚椎椎間板ヘルニアに対する手術的治療ー
参照:前方法から後方法へー頚椎椎間板ヘルニアに対する手術的治療ー
〇頚椎ヘルニアに対する手術法は1960年代までは後方法からが一般的だった。
しかし、ヘルニアの摘出が困難という問題点があり、1960年からは前方法が普及した。
1980年からは手術用の顕微鏡も導入され、後方法の可能性も再検討されている。
この研究の目的は、手術方法と手術成績を検討することである。
〇1980年代では前方法75%と後方法が25%、2000年代には前方法9%、後方法91%と、最近では、後方法が一般的に普及している。
〇119例 男性89例 女性30例 平均延齢51歳 脊髄症39例 神経根症59例 根脊髄症21例
〇神経根症では後方からの顕微鏡視下ヘルニア摘出術59例。
手術後前例で上肢痛が軽減、54例92%は、完全に消失している。
5例の8%はごく軽度の上肢痛が残存。軽度のしびれが残存例が16例(27%)。
〇正中に巨大なヘルニアがあり、後方から摘出が難しい症例のみ前方除圧固定術を選択しており、前方法に適応した症状もあると考える。
また頚椎ヘルニアの再手術例に対して、前方法が12,3%で後方法は1,4%と、後方法が明らかな安定がみられている。
前方法は隣接椎間障害による、再手術率が10年の経過で10%前後であり、長期成績が不安定であると述べられている。
〇ちなみに海外では、人口の椎間板を使った手術があり、除圧をしない、前方手術が行われている。
膝や股関節の人工関節の耐用年数が20年に満たないことを考えれば、その長期成績は、不安定であるとも考えられます。
若年者の多い頚椎ヘルニアでは可能な限りでは後方法で対処するのが望ましい。

数
〇手根管症候群は1980年代のオランダの調査では、女性9.2% 男性0.6% と推定されている。
1990年代ではスウェーデンの調査では、男女合わせて3,8%とされています。
年間の新規発祥は、イギリスでは、人口10万人当たり、女性61.5~120.5人 男性35~60人。
イタリアの調査では、人口10万に当たり、女性506人、 男性139人と報告されています。
ヨーロッパではおよそ4%の有病率で、女性が男性よりも3倍~10倍ほど発生しやすい。
原因
・多くの手根管症候群では、特発性であり、手首の屈曲・伸展による物理的負荷により発症すると考えられています。
その他の発祥の誘因では、
1・手根管の内腔を狭める局所因子(・屈筋腱の腱鞘炎・関節リウマチによる滑膜炎・人工透析患者のアミロイド沈着・腫瘍・ガングリオン・骨折 等)
2・神経側の脆弱性(遺伝性圧脆弱性ニューロパチー・糖尿病性その他の多発ニューロパチー
3・全身性要因(・妊娠・浮腫・甲状腺士官・原発性アミロイドーシス)などがある。
症状
・正中神経領域のしびれ感や痛みが多く、夜間、特に明け方に上京するのも特徴である。
しばしば、痛みによる夜間に起きてしまうことも。
手を使うことでもしびれが増強する。
手を振ったり、あるいは、手の姿勢を変えることで、症状が緩和することも特徴的である。
異常感覚の範囲は初期は部分的であることが多いが、自覚的なしびれ感は正中神経領域だけではなく、小指を含む手全体と表現されることもある。
また、手根管部から前腕、時には上腕に達する、放散痛を訴えることがある。
新後期には、正中神経支配の手の筋肉の脱力、筋委縮が認められる。
筋委縮を観察しやすいのは、短母指外転筋であるが、日常生活の中での機能障害としては、ピンチ動作、物をつまむ動作が問題になる。
過度の運動負荷による原因でない場合は、両側性であることが多い。
診断手技は、Phalen徴候・逆Phalen徴候・Tinel徴候は診断を支持する所見である。
診断
・夜間早朝に増悪する手のしびれ感と痛み、手を使うときの増悪、手を振ることによる軽快、正中神経領域に一致する他覚的感覚障害(特に、環指正中線を境界とする感覚障害。Phalen徴候、Tinel徴候、短母指外転筋の筋力低下、母指球筋の萎縮、など特徴が張っているとほぼ確実。
特に、夜間の増悪する痛み、Tinel徴候、Phalen徴候は診断確実例における頻度の高い症状・症候である。
・補助検査としては、神経伝導検査がある。
神経伝達遅延から、確定診断ができる。
また、軸索変性の程度を確認できることから、治療法の選択に重要な情報が得られる。
また、近年では、MRI、あるいは、超音波検査が神経伝達検査とほぼ同等の診断ができると報告されている。
画像検査でのガングリオン、腫瘍などの原因を特定できる利点がある一方で、軸索変性の程度や予後の推定は現時点では困難で、補助検査も大切である。
・手根管症候群は発生頻度の高い疾患で、他の原因の可能性も考える。
特に、頚椎症との合併は、Double crash症候群(ダブルクラッシュ)とよばれ、どちらの疾患が、より症状に関与しているのか、考えないといけない。
治療
・治療は、外科的治療と保存療法に分かれ、手術は、手根横靭帯切開法、内視鏡的手根横靭帯切開法などがある。
保存的治療は、スプリント、ステロイドの手根内注入、ステロイド内服、非ステロイド系消炎薬、利尿剤、ビタミン剤がある。
原則、重症例は、外科的治療になるが、何をもって重症なのかは定まっていない。
一般的には、痛みが強い場合と、軸索変性がある場合は手術が多い。
自然史
突発性手根管症候群441例の予後の観察 約1年(10~15ヵ月)で改善が35%。
45%は症状が変わらず。
その中でも68%は、仕事に支障が出て、32%は仕事を変えなければいけなかった。
自然に回復する要因を考えると、診断までに期間が短いこと、年齢が若いこと、片側だけのしびれのこと、Phalen徴候陰性が挙げられる。
日本のデータでも、30%は自然回復すると報告されている。
発生機序
女性に効率に発症することから、手根管の面積が小さいことが原因と考えられる。 しかし、その中でも手根管の面積には関係ないという報告もある。
透析患者
透析患者での手根管症候群では、血液透析と腹膜透析患者の間では発症率は同様であることから、その原因は、手根管内で、でβ2-microglobulin(マイクログロブリン)からなるアミロイド沈着が正中神経を圧迫することによって生ずると考えれらている。
手根管症候群 は腎障害患者によく見られ、9年以上の透析を受けている患者差の30%に起きて、透析機関が長いと手根管症候群になりやすいとのデータがある。
また、長期に透析を受けている手根管症候群は、特発性の手根管症候群と異なり、神経障害が手根管内だけではなく、正中神経の近位および遠位にかけて広範囲にかけて進行しているために、通常の手根管症候群と比較して、長期の透析患者は術後の回復に限界がある。
全身性因子
浮腫が妊娠女性の手根管症候群発症に関連している。
症状は妊娠のどの時期でも自覚されるが、分娩後の症状は軽快する。
しかし、妊娠初期に発症した手根管症候群は分娩後症状が消退しにくく、分娩後手術が必要になることがある。
また肥満が手根管症候群になりやすいとイギリスの調査1264名で報告された。
BMIが25を超えると、2倍、29を超えると2,5倍 であることがわかった。
女性ホルモンの影響も指摘されており、44歳以下で両側の卵巣摘出術を受けた患者は同年齢のものに対して、手根管症候群の発症率が3倍程度、高いことが知られている。
保存的治療
1・痛みが強く、早期に痛みを取らないといけない場合、ステロイド内服、あるいわ、ステロイドの手根管内注入、で2週間を目処に経過を観察し、その後に痛みが再発するようであれば、手術を考慮する。
2・拇指級の萎縮があれば、手術を考慮する。
3・血液透析、アミロイドーシス、ガングリオン、腫瘍による手根管症候群は手術を考慮する。
4・痛みが我慢できる範囲で、筋委縮のない場合は、手関節の安静を指示し経過を観察する。
保存治療としてはステロイド手根管内注入、ステロイド内服、非ステロイド系消炎薬、スプリントが行われている。
その他にも、利尿剤、ビタミン剤、ヨガ、運動療法、超音波療法が試されている。
ステロイド手根管内注入及び、内服薬は、ランダム化比較試験でプラセボ群と有意差がみられている。
しかし、その他の治療法について、スプリントを含めて有効性を確立するエビデンスはない。
また、ステロイド治療がどのような重症度、背景を持つ患者に適切なのか、判断するのかは今後に残された問題でもある。
ステロイドの手根管内注射あるいは内服についての適応は明確にはなってないけど、症状の軽減はあることは証明されており、保存的な治療の中心と思われる。
スプリント
1日固定するのと、夜寝るときに固定するのと、比較した結果、症状や、指の機能回復、神経伝導検査の評価に有意差、違いは認められなかった。
1日中固定するのと、夜寝るときだけの固定では、治療に違いが出ないものと考える。
注射するのと、スプリント+消炎薬の比較を行って、開始2週間、8週間の時点で、症状に有意差はなかったと報告されるている。
ストロイドの手根管内注入は 1~2ヶ月の手根管症候群の症状の軽減に有効だけど、内服ステロイドや消炎薬+スプリントの効果をそれほど大きく上回る効果ではない。
ステロイド内服薬の検証では、等よから4週までの短期的には有効にあるが、6週間以降の効果については、効果はいまいちなのかもしれない。
手術
手術方法は様々な試みがあるが、従来の直視手根横靭帯切開法(Open Carpal Tunnel Release(OCTR))よりも有効な手術方法はない。
内視鏡的手術に関しては、有れるさまざまな報告があり、結論的ではない。
直視的手術と、内視鏡手術の長期的な予後に関しては、内視鏡の方がいい報告と、効果に違いがない報告とある。
治療方法の選択 治療方法の選択で大きな問題は手術の適応である。
通常は、「重症例」や、「保存治療で改善が見られない場合」に手術を選択するが、「重症」の定義が明確ではなく、「どの保存治療に対しても、どのくらいの期間行って治療反応性を判断するか」について、意見の一致がない。
個々の患者の病態、背景を考慮して、効果的で満足度の高い治療方針を選択するべきだろう。
まず、手根管症候群の35%は何もしないでも改善する。
自然に治るためには、診断までに期間が短いこと、年齢が若いこと、片側の症状、Phalen徴候陰性が挙げられる。
そして、筋委縮がなく、痛みやしびれが我慢できる場合に、手首の安静で経過を観察する。
手根管症候群で日常生活が辛いのは、痛みで、仕事や睡眠が障害される場合。
即効性で短期効果(2~4週)でステロイド手根管内注入、ステロイド内服を行う。 もし、痛みの軽減がない、また4週間の治療後の痛みがぶり返す場合には、手術も検討する。
4~8週の保存治療で効果がない場合は、患者の希望、生活背景を配慮し、手術を検討する。
痛み以外では、運動障害で短母指屈筋の麻痺でピンチ動作の障害や、筋委縮も手術療法を考慮する。
